サーモパイル ISB-TS45Dの実験

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最近秋月が売り始めたおもちゃ、サーモパイル ISB-TS45Dでちょっと遊んでみたのでその記録。

サーモパイルが非接触で温度を計れる原理

サーモパイルの本体の温度、サーモパイルと対象の温度差、2つを知って対象の温度を知るセンサーである。

サーモパイルの基本は熱電対で、の片方に光を当てて温度差を作り、その起電力でエネルギー量を推し量る。 光なら何でもよくて、サーモパイルの場合は赤外線以外にフィルターかけて温度を図るらしい(わかるけどわからない)。

ただ、当然熱電対は熱電対なので、サーモパイル素子との温度はわかるが、絶対的な温度はわからない。 そこで、一般的なサーモパイルはサーミスタも内蔵して素子自体の温度を計れるようにしている。

実験回路の方針

そういうわけで、サーモパイルは

  • 内蔵サーミスタの抵抗値検出
  • サーモパイルの起電力検出

の2本立て回路が基本になる。

サーミスタの抵抗値検出

NTCサーミスタと呼ばれる、温度が上昇すると緩やかに抵抗値が下がる素子が使われている。 このタイプは、サーミスタのB定数がBで基準温度T_0での基準抵抗値R_0の場合、温度Tのとき抵抗値R

R=R_0\times\exp(B\times(1/T-1/T_0))

で表せられる(絶対温度であることに注意)。 特に今回のセンサはB定数が3950、基準温度298.15K(25℃)で100KΩなので、

R=100k\times\exp(3950 \times(1/T-1/298.15)

である。要するにこんな感じ。

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温度と抵抗値

0℃で336k、40℃で53kなのでまあ結構変わる。100kとの分圧回路を組んで、出力をかんたんに調べてみる。

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単純な分圧

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温度と分圧による電圧出力

サーミスタの実験

分圧抵抗は100k±5%、実測値96.4k。

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19.5℃、1.95V
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21℃、1.87V
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23℃、1.83V
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冷えた指、1.54V

まあまあずれているが、これだけ変化してくれるならなんとかなりそう。 大体1.5℃くらいずれてるし温度計が嘘ついてる説もある。

サーモパイルの起電力検出

対象が熱電対であるので、よくあるそういう回路に行き着く。 LTSpiceでシミュレートしたときの回路図なので見づらくて申し訳ない。

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サーモパイルの起電力検出回路

右側だけなら単純な101倍の非反転増幅回路だが、左側で変なことをしている。 0V付近のオフセット意識もそうだが、マイナス起電力が起きるケースもあるので、サーモパイルの負極をGNDからちょっと浮かせてある。 今回は3.3x(1/1+10)=0.3Vを基準にしている。まとめると、

V_{out}=0.3+V_{tp}\times101

と表される出力になるはずだ。

サーモパイルの実験

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通常時、740mv

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手をかざす、788mv

うお・・・入力オフセット電圧ゥ・・・!使ったのがNJU7044Dで、今回は400mVくらい(=入力オフセット電圧が4mv?)ずれているが、最大10mvあるらしいので100倍だと最大1V変わってくる計算になる。 ただ出力が48mvくらいは変わっていて、これはサーモパイルの起電力が0.48mvくらいを示しているはず。データシートの表から見ると温度差は10と11の間くらいなので私の手の温度は32℃か33℃・・・生きてるのか?

アナログ回路難しい。 ただ入力オフセット電圧でずれてると言うのは、オフセットが小さいLM324使ったら通常時が300mvにだいぶ近い値になったし、間違っていないはずである。 じゃあLM324使えよって話かもしれないが、3.3Vで完結させたい以上、フルスイングのオペアンプにしたかった(手持ちが7044しかなかった)。 そもオペアンプって1段で100倍していいのかとか色々ある。先生か教科書がほしい。

実用的な計算・温度保証

では最終的に完成形(製品とか)を作るとすると、 大体リニアになるように工夫したサーミスタ入り分圧回路をサーモパイルの負極にぶら下げるというアナログ的にやる方法と、 上の2種の回路をそのまま独立して使ってサーミスタとサーモパイル別々にAD変換してマイコンに補正・計算させる方法があるらしい。 自分はこのおもちゃを一つの形にするときにははんだ付け面倒くさいから後者の方法を取ると思う。

参考

追記

一応完成形を作ってそれっぽい記事にしたいので追記しておく(2021/5/20)。

elchika.com